「サビカスのナラティブアプローチ実践講座」を受講くださった方より興味深い質問をいただきましたので、回答とともにご紹介いたします。
回答:結論として、ナラティブを用いない構成主義カウンセリングは存在しないと思います。
しかし、ナラテ ィブの重視度や使い方、他の原則のうちのどの部分をより強調するかによって、いくつかのグループに分かれると思います。ここではまず、臨床心理学分野における構成主義心理療法とナラティブアプローチ(ナラティブセラピー)の関係を取りあげ、次にキャリアカウンセリングでの構成主義とナラティブの関係に言及します。その理由は、臨床分野とキャリア分野でかなりの類似があるからです。
マイケル・F・ホイト編「構成主義心理療法ハンドブック」(引用1)では、構成主義心理療法という傘下のもとにあるアプローチとして、「再決断療法」「家族療法」「可能性療法」「リフレクティング・チーム・アプローチ」「ソリューション・フォーカスト・セラピー」「ブリーフセラピー」「ナラティブアプローチ」が紹介されています。編者であるホイトは日本語版序文の中で、「構成主義心理療法の基本的な考えかたは、私たち人間は、自らの行動に影響を与える一つの世界観(「ストーリー」もしくは「物語」)を積極的に造りだしているということです。」と述べ、さまざまなアプローチに共通の事項として以下の4点をあげています。これらは構成主義心理療法であるための必要十分条件を示していると言えるでしょう。( )内は、様々なアプロ ーチを強調点によって宗方が分類したものです。
(1)言葉の使用に際しての十分かつ鋭敏な注意にもとづいて、社会的に構成された現実に対する信念をもつこと。(「再決断療法」「家族療法」「ナラティブアプローチ」)
(2)治療同盟と本当の共同性を重要視すること。(「リフレクティング・チーム・アプローチ」) ※治療同盟とは、治療者と患者が協力して問題に向き合い、治療に臨むチームになるという意味です(宗方)。
(3)クライエントの能力、動機、考え、価値、目標を何よりも尊重すること。(「可能性療法」「ブリーフセラピー」「ソリューション・フォーカスト・セラピー」)
(4)現実と未来の可能性がもっている価値を十分に認識すること。 |
次に、キャリアカウンセリングにおける構成主義とナラティブの関係について取り上げます。
McMahon は2017 年に出版した「Career Counseling 第2版」(引用2)の中で、「キャリア理論とキャリアカウンセリングにおいて“ナラティブターン(ナラティブへの転回)” が構成主義アプローチの中核となるのは、人は物語ることによって人生を生きるという基本的仮説を反映するものである。・・・ナラティブは人が自分のアイデンティティを構成する方法として構成主義キャリアカウンセリングに内在するものであり、時にナラティブキャリアカウンセリングと称される。」と述べています。したがって、構成主義キャリアカウンセリングにおいてナラティブという要素は不可欠であり、常に存在すると言ってよいでしょう。同時に、その手法については起源や特徴によ ってバリエーションがあるとしており、書籍の中で「ストーリードアプローチ」「アクティブエンゲージメント」「システム理論の枠組み」「問題焦点型キャリアカウンセリング」「ソシオダイナミックキャリアカウンセリング」「対話的自己」「キャリア構築理論」「目標指向型キャリアカウンセリング」「カオス理論」などを紹介しています。
この書籍の第1版(2006 年出版)については、新目真紀氏が下記書籍にて紹介していますので、興味のある方はそちらを参考にしてください。
社会構成主義キャリアカウンセリングの理論と実践 : ナラティブ、質的アセスメントの活用
渡部昌平 編著 福村出版 2015
引用
1)Hoyt, F.M. (Ed.) (1998). The handbook of constructive therapies: Innovative approaches from leading practitioners. Jossey-Bass Inc., Publishers. (児島達美(監訳)(2006)構成主義的心理療法ハンドブック 金剛出版)
2)McMahon, M. (Ed.)(2017). Career counseling (2nd ed.) NY: Routledge.