2022年1月30日(日)、 munelaboのプログラム第4弾「サビカスのナラティブアプローチ実践講座」が無事終了いたしました。
キャリアコンサルタントをはじめ、企業の人事・人材開発担当者、大学のキャリア教育担当教員、現役の大学生など、幅広い職種と年代の方々14名が受講してくださいました。「サビカスに強く惹かれている」という共通項により、非常に充実した学びの場となりました。
受講者の皆さんにお答えいただいたアンケートを一部抜粋してご紹介します。
受講動機 |
カウンセラーとしての課題点 |
今回の受講者はサビカス理論についてはよくご存じの方が大半ですが、受講動機で多かったのは「改めて体系的に深く学びたい」「ナラティブアプローチの実践方法を知りたい」ということでした。日本ではサビカスの訳本も限られており、サビカスの理論やナラティブアプローチに興味を持っても、しっかり学ぶ機会は決して多くないことが反映されているのだと思います。皆さん、日々業務においてそれぞれに工夫を凝らしながらも、カウンセラーとして、さらに経験を重ね、聞く力、理解する力、因果関係を整理する力を高め続けることが課題であると十分認識しておられます。
2時間30分の本講座は、「理論編」「ロールプレイ編」「実践編」の3部構成に15分間の質疑応答を加えて開催いたしました。
理論編 |
サビカス博士のキャリアカウンセリングについて、基本的概念や特徴とセッションの進め方やナラティブアプローチ手法をご紹介しました。
ロールプレイ編 |
ブレイクアウトルーム機能を用いて、2人1組でキャリアストリーインタビューを相互に行いました。まずはクライエント役もカウンセラー役もこのインタビューが楽しいものであることを体感していただきたいと考え、20分間の簡易体験版にしました。短い時間でも充実したものにするため、キャリアストーリーインタビューの質問項目を事前に配布し、当日までに回答をあらかじめ準備していただきました。本来のカウンセリングセッションの形とは違いますが、「20分では短すぎる」というご意見や「クライエントとしてフルバージョンのサビカス流カウンセリングを受けてみたい」など、それぞれに得るものがあったようです。
今後行う際は時間を長く設定し、インタビュー内容の解釈の仕方やその伝え方なども加え、より実践に即したロールプレイを行ってみようかなと思います。
実践編 |
サビカス博士がどのようにナラティブカウンセリングを行っているのか、実際のセッション動画を視聴していただきました。
この動画では、今後進むべき方向について迷っている大学院生のタラさんが語り手(クライエント)として登場。サビカス博士のナラティブカウンセリングの定番である「キャリアストリーインタビューの5つの質問」を通して語られるタラさんの回答はとても面白いストーリーがあり、それに対するサビカス博士の聞き手としてのテクニックとその解釈は見事なものでした。最終的にタラさんが何を望んでいるかをサビカス博士が結論づけたとき、タラさんは思わず「今日はじめてお会いしたのに、なんでそんなに私のことが分かるのですか?」と驚きました。まるでドラマを見ているようなカウンセリングの展開に、皆さん無心に聴き入っていました。
サビカス博士がキャリアストーリーインタビューをセッションの中でどのように使用するのか、どのようなやり取りを行うのか、クライエントと一緒に新たなストーリーをつくっていく様子を最初から最後まで通しで見ることで、ナラティブアプローチの醍醐味をダイレクトに学ぶ貴重な機会となったと思います。
セッション動画のほか、引用元に収録されているビデオシリーズのホスト カールソン博士(アメリカの著名な心理療法家)とサビカス博士の対談を通じて、サビカスが実践しているキャリアカウンセリングが目指していること、5つのキャリアストーリインタビューの各質問の意味、そしてクライエントの語りをどう解釈するかなど、サビカス自身による解説を紹介しました。
実践編の最後に、構成主義キャリアカウンセリングの特徴、他のキャリアカウンセリングとの違い、臨床的なナラティブセラピーの主要概念(外在化、オルタナティブストーリー)、サビカスが影響を受けた構成主義心理学者(ジョージ・ケリー、アルフレッド・アドラー)についても取り上げました。この2人についてはコラムにも書きました。興味のある方はぜひご覧ください。
サビカスが影響を受けた構成主義心理学者 vol.1 ジョージ・ケリー
サビカスが影響を受けた構成主義心理学者 vol.3 アルフレッド・アドラー
質疑応答 |
キャリアストーリーインタビューの進め方についてなど、実践に即した質問が多く、本当にサビカスの理論やキャリアカウンセリングについて学びの場を必要としている方たちの集まりだったと感じました。
質疑応答の内容を一部編集してご紹介いたします。
Sさんの質問:キャリアストーリーインタビューにおいて「6歳以前のロールモデル」が出てこない場合、年齢を上げてもよいのでしょうか?
回答:6歳以前の幼児期であることが望ましいです。理由は、世間の価値観を知らない時期の憧れを知りたいからです。どうしても出てこない場合、徐々に年齢を上げていきましょう。サビカス博士のクライエントであるタラさんのロールモデルを例に挙げると、「小学校高学年のスミス先生」と「中学生の頃にジャネットジャクソン」となっていますので、中学生くらいまではOKではないかと考えています。
Yさんの質問:キャリアストーリーインタビューにおいて「最も幼い時期の記憶」が、とても簡単なものでしかない場合はどうしたらいいのでしょう? 制約を設けて聞いてもよいのでしょうか?
回答:できれば制約を設けずに聞いていただきたいです。ストーリーを3つ出してもらって、最も内容がありそうなものを取りあげることにして、それ以上無理にこの質問にこだわらなくてもよいと思います。
Kさんの質問:「最も幼い時期の記憶」について、親などに言われてそういうことがあったと認識している事柄は、クライエント自身の記憶ではないけれど、それを取り上げてもよいのでしょうか?
回答:今のクライエント自身が、あくまでも過去にあった事柄だと思っていること、それが事実かどうかは問題ではなく、クライエントにとっての記憶であることが重要です。周囲に言われたことでも、自分の思い出と思えればOK。サビカス博士がなぜ幼い頃(3~6歳)の記憶を重視するかというと、現時点でのクライエント自身の選択だという点だからです。時期が変わればその記憶が変化しても良いし、むしろ変わって当然です。この点について、アドラーも「早期回想はその人の物語の原型」と言っているとおり、学習や経験ではなく、その人の特徴やあり方が幼い時期にすでに存在し、回想から窺えると考えています。私自身、以前はこの考えに疑問を持っていましたが、自分自身のナラティブストーリーから導き出された私の早期回想から、今は同意しています。
Nさんの質問:サビカスのキャリアカウンセリングに特化した活動を発信・展開できる場所はあるのでしょうか?
回答:大学やハローワークなど既存のものだけでは難しいので、オンラインを含めた独自の場をぜひ開発していただきたいです。今回の受講者同士が、チームとして関わることになったら素晴らしいと思います。ネットワークやマンパワーは必要ですので…。
さいごに
今回の講座は、皆さんの積極的で前向きな姿勢と豊かなリアクションのおかげで、私自身とても楽しく進行することができました。本当にありがとうございます。
受講後に、「サビカス理論についてよい学び直しになりました。」「曖昧だった構築主義と構成主義の理解がクリアになりました。」「関連書籍やビデオなど、ここでしか得られない情報に触れることができて、とても有意義な時間になりました。」などの感想をいただきました。「勉強になったので、クライエントとしてフルバージョンのサビカス流カウンセリングを受けてみたい。」という嬉しいご要望もいただき、後日、数名の方とそれぞれ個人カウンセリングセッションを行うことになりました。
サビカスやナラティブの奥深さ、面白さなど多くの魅力を皆さんと共有し、実りある素晴らしい学びの場となったことを嬉しく思います。日々の業務においてカウンセラーとして力量を高めることにも、大いに活かされると確信しています。また、Nさんの質問でもお答えしましたように、これを機にサビカスの学びをさらに深めていただき、より多くの人へ社会へと広がるネットワークが発展していくことをこころより願っております。
munelaboでは「キャリア専門家の方のための 個人コンサルテーション」を随時受付中です。
「キャリア専門家の方のための」となっていますが、サビカス理論に則ったキャリアカウンセリングを受けてみたい方、ご興味をお持ちの方、どなたもお気軽にお問い合わせください。