サビカスが影響を受けた構成主義心理学者 vol.1
Posted by 22.01.13

はじめに

 

2022年1月30日(日)開催の「サビカスのナラティブアプローチ実践講座」に関連して、講座内では時間配分的に収まりきらず取り上げられないですが、サビカスやナラティブアプローチの周辺について、代表的な理論や研究者をいくつか皆さんにご紹介したいと思います。

 

「サビカスのナラティブアプローチ実践講座」は2022年1月30日に開催・終了いたしました。

プログラムレポートはこちらから

 

 

最初は、ナラティブセラピーの創始者として知られているマイケル・ホワイト(Michael White 1948 – 2008)について書こうとしていました。ですが、準備をしていく過程で、ホワイトの一派は家族療法のナラティブであるため、キャリアカウンセリングとは概念的にかなり異なるということや、元々、ホワイトたちがSocial Constructionism(社会構成主義:社会の影響を非常に重視する立場)であるのに対して、サビカスのルーツはConstructivism(心理構成主義:個人の頭の中での意味構成を重視)だなーと思い出し、今回はサビカス自身が実際に影響を受けた構成主義心理学者を紹介したくなりました。

 

 

最近では、多くのキャリアコンサルタントが、ナラティブセラピーや構成主義心理療法に興味をもち、熱心に学んでおられると思います。構成主義心理療法といっても、家族療法から精神科領域やグリーフ、短期療法や問題解決療法など、非常に広範な理論と手法があります。私自身は、これらの心理療法を学ぶことにとても魅力を感じますが、一方でそれぞれの違いや共通点を理解することは容易なことではないとも感じています。

 

そこで、サビカス理論をより深く理解するために、サビカス自身が影響を受けた構成主義心理学者がどのような考えをもっているのか、どのようにカウンセリングや心理療法を実践しているのかをまずはおさえておくことから始めることをお勧めしたいと思います。

 

 


最初に取り上げるのは認知臨床心理学の父、ジョージ・ケリーです。

 

George Alexander Kelly (1905 – 1967)アメリカの心理学者。1946-1966年オハイオ大学教授。「パーソナル・コンストラクトの心理学」を1955年に出版し、パーソナル・コンストラクト理論を提唱しました。構成主義心理学の基礎を築いたとされ、認知臨床心理学の父として、欧米では多くの心理学者に影響を与えています。ケリーは別の人格を演じさせる心理療法によって優れた治療効果をあげたり、個人にとっての意味を測定する手法としてレパートリーグリッドを開発したりと、広範な研究を手掛けました。才能豊かで個性的な研究者として、高く評価されています。

 

 

サビカスの研究者としての初期は、ドナルド・スーパーの弟子としてスーパーの「キャリア理論」を継承する研究を行っていましたが、1990年代になってからキャリア発達とキャリア支援のための構成主義的な独自の理論として、「キャリア・コンストラクト理論(キャリア構築理論)」を提案し始めました。

 

 

 

サビカスの「キャリア・コンストラクト理論(キャリア構築理論)」とは?

 

1970年代頃までの心理学では、「人間の心理や行動に関する一般的な原理や法則を見つける」という論理実証主義的なパラダイム(研究枠組み)が主流でした。それに異議を唱え、補完する考えとして登場したのが構成主義です。

 

構成主義では人間の個別性、主体性、能動性、複雑性といった部分に注目し、それらを重視します。キャリア心理学の分野でいえば、例えばスーパーの職業的発達理論は、人が職業的自己概念を発達させる道筋を共通した1つの段階として示しているという点で論理実証主義に則った理論です。

 

それに対して、一人ひとりがどのように自分自身を構成し(自分がどのような人間であるかを明らかにし)、職業行動を方向づけ、そして自身のキャリアの意味を生成するのかを問題としたのが「キャリア・コンストラクト理論(キャリア構築理論)」です。

 

 

 

サビカスの「キャリア・コンストラクト」という非常にユニークな概念が誕生する背景に、構成主義心理学者の誰から影響を受けたのでしょうか?

 

それが「パーソナル・コンストラクト理論」を提唱したジョージ・ケリーです。サビカスは1977年の論文(Constructivist career counseling: Models and method, Advances in Personal Construct Psychology, 4, 149-182.「構成主義者のキャリアカウンセリング:モデルと方法」)の中で、ジョージ・ケリーの「パーソナル・コンストラクトの心理学」について9頁をついやして紹介しています。ちょうどサビカスがキャリア・コンストラクト理論を本格的に提唱し始めた時期ですので、いかにケリーの思想や研究から大きな刺激と影響を受けたかが推察されます。

 

「キャリア・コンストラクト」と「パーソナル・コンストラクト」という名称のシンクロも興味深いことです。また、以下のケリーの言葉からも、サビカス理論との共通点が理解できると思います。

 

・個人のプロセスは、出来事の予期の仕方によって心理的に航路を切り拓かれる。

・人間の運命の鍵は、その人が否定できないことを解釈しなおす能力だ。

・人間は予期システムをとおして、その繰り返し現れるテーマを次第に把握していける。

・セラピストは、変化のための最終能力と最終責任がクライエントにあるということを認識する、特別に養成された協働者である。

・クライエントとカウンセラーは一緒になって、特殊な形の親密性と、非常に個人的な作業関係を作りあげる。

 

 

 

ケリーの「パーソナル・コンストラクト理論」では、人間は経験をもとにしながら絶えず「概念的な鋳型」(個人的なコンストラクト)をつくりあげており、そのコンストラクトによって世界や環境を積極的に認識し、把握し、行動すると考えます。そして最も関心が向けられているのは、個人の私的なコンストラクトがどのように組織化され、経時的にどのように変化するのかという問題だったといわれます。

 

このケリーの人間観と研究成果をキャリアの分野に応用し、さらに「人は語ることを通してキャリアを構成する」というナラティブの要素を加えたのが、サビカスのキャリア・コンストラクト理論(キャリア構築理論)なのです。

 

サビカスに大きな影響を与えたジョージ・ケリーは日本での知名度は低いのですが、2016年に以下の訳本が出版されています。

 


パーソナル・コンストラクトの心理学【第1巻】:理論とパーソナリティ
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パーソナル・コンストラクトの心理学【第2巻】:臨床診断と心理療法
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認知臨床心理学の父 ジョージ・ケリーを読む:パーソナル・コンストラクト理論への招待
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次回の「サビカスが影響を受けた構成主義心理学者」は、グリーフセラピー(悲嘆療法)の第一人者であるロバート・ニーマイアーを紹介する予定です。お楽しみに!

 


 

Categories: COLUMN

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