『キャリア心理学から読み解く 女性とリーダーシップ』出版のお知らせ
Posted by 23.04.10

出版の構想からおよそ2年、ようやく刊行の運びとなりました。

 

本書を通じて、この先の近い未来、女性活躍とジェンダー平等を獲得した社会へと進み、男女問わず主体的にキャリアをつくることができる幸福な人生の実現に近づく一助となることを切に願っております。

 

未来は不確実で先行きを完全に予測できる人は殆どいません。ですがある程度備えることは可能であり、そのための自発的な学びを生涯にわたって続けることが大切だと考えます。私も先人たちの学術的研究に触れることで学び続ける楽しさと勇気をもらい、ミネルヴァ書房さまとのご縁と結実し、本書が研究者としての私自身の集大成となりました。

 


『キャリア心理学から読み解く 女性とリーダーシップ』

宗方比佐子 (著)ミネルヴァ書房(出版)

20234月刊行

A5判・304ページ

3,080(税込)

 

ミネルヴァ書房アマゾン楽天ブックス紀伊国屋書店など各種オンラインストアで販売中


 

 

本書の狙いは、キャリアコンサルタント、キャリア教育担当者、企業人事・人材開発担当者など教育機関や企業などで活躍しているキャリアの専門家に向けて、「女性のリーダーシップ」「女性のキャリア教育」に関する授業や「女性リーダーシップ開発研修」のテキストとして活用していただくことです。

また、専門家ご自身にとっても学び直しや俯瞰的視野を深め「専門力」を高める学術書として役立つよう、女性リーダーシップに関する学術的な知見として古典から近年まで重要研究とされている以下5つの理論を体系的に解説しています。

 

 

①ジェンダーステレオタイプ理論

 

「ステレオタイプ」という概念が生まれてからおよそ100年。文化·生活レベルで多くの人に浸透している先入観、固定観念、思い込み、偏見、差別といった類型的な観念に関する多くの研究が行われています。これらは女性の活躍やリーダーシップにおいて、現代でも根深く強力な影響力を与えており、公正な社会の実現には避けては通れない課題となっています。

 

ステレオタイプは偏見を生み出し差別へと発展する可能性を明らかにしたオルポートとポストマンによる1945年の研究、女性も女性に偏見を持っていることを明らかにしたゴールドバーグによる1968年の研究(これはアンコンシャスバイアスという概念の源流となったと言われています)、多くの人々が抱いている「管理職といえば男性」というジェンダーステレオタイプとリーダーに求める特性との関係を明らかにした1973年のシャインの研究など今も多くの研究者に支持されている古典研究をおさえています。

 

 

 

②役割不一致理論

 

多くの文化において、男性は仕事で収入を得て家族を養い、女性は家庭内で家事や育児に携わるということが伝統的に男女に割り当てられた役割、すなわちジェンダー役割(性役割・ジェンダーロール)と見なされてきました。イーグリーとカラウは2002年に、ジェンダー役割とリーダー役割の不一致が、女性のリーダーシップ評価に大きな影響を与え、偏見を生み出すとして役割不一致理論を提唱しました。

 

役割の不一致は女性リーダーに対する評価者の認知だけでなく、女性自身の自己評価にも影響することを明らかにしたヘンチェルらによる2019年の研究、女性の心理特性とされる「共同性」がリーダーの特性として評価・期待されにくいことを示唆したヴィアルとナピアによる2019年の研究、性別職業分離(ジェンダー役割を反映した男女の職業の偏り)が男女の賃金格差を生み出すメカニズムを明らかにした山口による2017年の研究などを紹介しています。

 

 

 

③暗黙裡のリーダーシップ理論

 

「暗黙裡のリーダーシップ理論」は、人々がリーダーを評価する際に、個々人の思い込みや先入観が無意識に作用するメカニズムを明らかにしたものです。この理論を基にした宗方·若林による1987年の研究では、女性のリーダーシップは男性よりも相対的に低く見積もられるという表面的で直感的な偏見に加えて、女性は女性らしい行動によってのみリーダーとして評価されるという、より内面的で微妙なもう一つの偏見の存在が示唆されました。

 

昇進候補者に対する評価基準が男女で異なることを明らかにしたプレーヤーらによる2019年の研究、リーダーシップ評価に及ぼす身長の影響を進化心理学の立場から検討したブラーカーらの2013年の研究も取りあげています。

 

 

 

④ジェンダー類似性仮説

 

マッコビーとジャックリンによる1974年の画期的な研究により、心理特性に関する男女差は人々の予想に反してそれほど大きくない(確実に男女差があるのは言語能力、空間能力、数学能力、攻撃性の4特性のみである)ことが示されました。この研究からおよそ30年後の2005年、ハイドはメタ分析(同じテーマを扱った複数の研究を総合的に分析する手法)研究の結果、心理特性には男女差が殆どないことを明らかにしました。

 

リーダーシップの男女差に関しては、スタイル、評価、効果について検討したイーグリーらの一連のメタ分析研究、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップの男女差をメタ分析したイーグリーらによる2003年の研究などを取りあげ、男女のリーダーシップの類似性と差異の程度、新しい時代のリーダーシップスタイルにも言及しています。

 

 

 

⑤社会や組織の構造・制度に関する理論

 

女性リーダーの登用に際して、女性の意欲や自己肯定感の低さが問題にされがちですが、女性をとりまく環境(組織や社会、または文化)に問題があるという指摘もあります。社会学、経営学、経済学といった分野では、組織の制度や風土が女性リーダーに与える影響、男女格差や不平等を生みだすメカニズムを検討しています。

 

例えば、トークン理論を提唱し、組織内における管理職の男女比そのものが女性管理職の登用や立場に大きな影響を与えることを明らかにした社会学者カンターによる1977年のエスノグラフィー研究、経営学者イーリーとティンズリーによる2018年の社会的ネットワーク理論(女性は昇進に有利なネットワーク(人脈など)に組み込まれにくい)などを紹介し、より広い視野から社会や組織に潜む課題に迫ります。

 

 

 

 

これらの重要論文を直接読む機会や経験がない方にも、できるだけ原文に近い内容でお伝えするために平易な文章と豊富な図解を用いています。

 

その他の特徴として、女性のリーダーシップに関する20編の主要研究の学問的成果を紹介し、本文中に出てくるキーワードや概念、「ガラスの天井」「ガラスの崖」「キャリアの迷宮」といった重要なメタファーなど併せて130もの用語を解説し、より理解を深めるガイドとしています。

 

 

 

多くは女性の特性とリーダーシップの特性に対する認知、女性の能力評価の不平等、女性活躍を阻害するメカニズムなど、女性管理職育成やリーダーシップ発揮だけでなく女性の生き方や自己認識にも大きく影響を及ぼすテーマです。具体的に女性活躍の促進要因・阻害要因についても取りあげており、今後の女性活躍推進に向けて研究ベースの提言も加えました。

 

 

「科学的根拠に基いて考えることの重要性や論文を読むことの面白さを伝えたい。」munelaboを立ち上げた初志をそのまま形にしたものが、本書でありmunelaboプログラム第1弾「最先端のキャリア心理学講座 キャリア心理学から読み解く 女性とリーダーシップ」(2021年)でもありました。

出版を記念してこの講座で出会った素敵な専門家をゲストに迎え、本書や女性とリーダーシップについて語り合います。

 

2023513日(土)20:00-|参加無料 

『キャリア心理学から読み解く 女性とリーダーシップ』出版記念トークライブ開催

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